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2023年のサッド・ポップパンク・シーン

2023.12.25

Real Friends


“Sad Pop Punk (サッド・ポップパンク)”。90年代後期、blink-182の登場によって”ポップパンク”は新たなフェーズへと突入した。”Sad Pop Punk”は、The Story So Farの登場によって変革した2000年代後期のポップパンク・ムーヴメントにおいて、2010年代に象徴的な活躍を見せたReal Friends、そしてKnuckle Puckというバンドが代表格となって、現在はアメリカだけでなく、ヨーロッパ、そして日本へもその魅力を波及させている。
 

 
Real Friendsにとって2023年は変化の1年であった。サッド・ポップパンクのアイコンとして親しまれたオリジナル・ボーカリスト Dan Lambton が脱退してから初となるアルバム『There’s Nothing Worse Than Too Late』をリリース。Real Friendsの後続として登場したYouth FountainからシンガーCody Muraroを迎えたReal Friendsは、再びこのカテゴリーのトップ・バンドとして動き出した。2023年12月現在、Pure Noise Recordsの公式ホームページの所属アーティスト・リストにReal Friendsの名前はあるが、11月に初の自主シングル「When You Were Here」を発表。すっかりReal Friendsのフロントマンとして板についたCodyの存在感は抜群で、2024年どのような活動をするのか注目したいところだ。
 

Knuckle Puck

 
Real Friendsと同じ時代を過ごしてきたKnuckle PuckもPure Noise Recordsからアルバム『Losing What We Love』を発表。奇しくもKnuckle Puckも長年所属してきたRise RecordsからPure Noise Recordsへと移籍を果たし心機一転してのリリースとなったが、不変の魅力を放つキラーチューン「The Tower」からは抜群の安定感が感じられる。この2組は11月から約1ヶ月に亘り、ダブル・ヘッドライナーツアーを行い、各地にはアメリカン・サッド・ボーイズたちが集い大盛況で幕を閉じた。
 

Real Friends & Knuckle Puck のツアーポスター


時を同じくして、ここ日本でもReal Friends、Knuckle Puckといったサッド・ポップパンクのオリジネイター達の系譜にあるサウンドを鳴らすバンドがいる。Good Griefだ。彼らも今年、デビュー・アルバム『Sad Station』を発表し、全国各地のポップパンク・ファンを唸らし、12月には東京・渋谷club asiaにて『SAD STATION FEST』を開催。日本のポップパンク・シーンを牽引するパフォーマンス、熱いフレンドシップ溢れる一日を作り上げた。そんな彼らもいよいよ来年、アメリカへと進出していく。日本のファンが彼らの為に出来ることはたくさんあるだろう。ソーシャルメディアの力で、Good Griefのグローバルな活動をプッシュしていこうではないか。悲しみを共有した人々の絆は強いはずだ。
 

 

Good Grief (Photo by Leo Kosaka)


Good Griefと同じように、Real Friends、Knuckle Puckフォロワーとも言うべきサッド・ポップパンク第二世代が活発だ。Youth FountainはCodyがReal Friendsへ加入してから、Tyler Zanonのソロ・プロジェクトとなった。Youth FountainもPure Noise Recordsと契約し、アルバム『Together In Lonesome』で持ち前のサッド・ヴァイブスを炸裂させ話題を呼んだ。中でも「Roses In My Backpack」は、人生で大切なものを全て失った時の感覚を歌った楽曲で、Youth Fountainスタート時から温め続けてきた楽曲。この度アルバムに収録され世界へその魅力を届けることが出来た。
 

ソロ・プロジェクトとして始動したYouth Fountain

 
BearingsやGrayscaleも2010年代後期、それこそYouth Fountainと同じくサッド・ポップパンク第二世代のバンドで、Bearingsはアルバム『The Best Part of Being Human』をPure Noise Recordsからリリース、Grayscaleはシングル「Not Afraid To Die」を発表。どちらも少しずつスタイルを変化させており、Bearingsはインディロックの香りをほのかに燻らせた柔らかで暖かみのある作品を作り上げた。GrayscaleはかつてTrash BoatやTrophy Eyesがロックへと傾倒していったように、激情的なポップ・ロックのスタイルをここ確立している。Grayscaleに関してはすでにポップパンクの文脈で語られるより、ロック・シーンでの人気の方が圧倒的に高いだろう。素晴らしいことだと思う。
 

 

 

Arm’s Length


さて、”サッド・ポップパンク第三世代”は生まれてきているのだろうか。強烈なインパクトをもってして登場した訳ではないが、それこそReal FriendsとKnuckle Puckのダブル・ヘッドライナー・ツアーのサポートアクトとして帯同したArm’s Lengthは第三世代の注目株だろう。かつてReal Friendsも所属したインディ/エモ・レーベルWax Bodegaのバンドで、今年は2曲のシングル・リリースのみであったものの、彼らの名前を目にする機会は非常に多かった。第三世代のキーワードは”インディロック/エモとの直接的なクロスオーバー”かもしれない。サッド・ポップパンクは既に確立されており、そこに新しい、そして非常に近く交わりやすいエモ・リヴァイバルを上手くArm’s Lengthがサウンド・パレットに落とし込んだように感じている。Tiny Moving Partsのようなバンドの存在も大きかっただろう。Arm’s Lengthと世代的に同じであるTiny Voicesや、日本からもOversleptsからはそのような雰囲気を感じる。Oversleptsには新ボーカリストAsl.が加入し、Good Griefに次ぐような精力的な活動を期待したい。
 

Gold Bloom

 

 

 
Bush League、Gold Bloomといった世代的には第三世代でありながらも、クラシックなサッド・ポップパンクを鳴らす新しいバンドも出てきているし、2024年もこのカテゴリーは活発で面白いものになるだろう。そして最後に触れておきたいのは、Real FriendsよりもThe Story So Farよりも前に、”エモ・ポップパンクのトップ・バンド”として、サッドなテクスチャーを大切にしてきたベテラン、Mayday Paradeが独立してキラーチューンを連発してたことだ。例えば、ポップパンクを語り始めるときにScreeching Weaselまで遡る人が少ないのと同じように、今のティーンエイジャーにどのくらいMayday Paradeのサッド・ヴァイブスが伝わっているのかは現地でライブを見ている訳ではないので分からないが、「More Like A Crash」、「Got Me All Wrong」、「Miracle」どれも本当に素晴らしいので、長く彼らをフォローしてきていない方もこの機会にチェックしてみてほしい。
 

 

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