2022.07.06
2022年上半期、メロディック・ハードコア・シーンの最も重要なリリースは、9年振りにリリースされたA Wilhelm Screamのニューアルバム『Lose Your Delusion』だ。前作『Party Crusher』から10年近い月日を感じさせないのは、彼らが世界中をツアーし続け、存在感を誇示してきたからであろう。アルバムからの第1弾先行シングル「Be One To No One」では忙しなく叩き込まれるドラム、シュレッド・リフと変わらぬA Wilhelm Screamらしさを聴かせてくれるが、「GIMMIETHESHAKES」のような力を抜いたトラックもアルバムをヴァラエティ豊かに彩る。確か、『Party Crucher』がリリースされた時も作品が高く評価され始めたのは、いくばか時間が経過した後のことだった。『Lose Your Delusion』も少しずつ耳に馴染むはずである。
A Wilhelm Screamの『Party Crusher』が撒いた種はすでに世界中で花開いている。ヨーロッパを中心に盛り上がりを見せるメロディック・ハードコア/パンク・シーンの中でも、イングランドを拠点とするDarkoの成長は目覚ましいものがある。Belvedereの来日ツアーにAlmeidaと共に帯同し、waterweedと厚い親交があることから日本でもファンの多い彼らであるが、新たにAlmeidaのボーカリストTomが加入し再始動。その1発目のシングルとして発表された「The Ladder」は7分を超える大曲で、メロディック・ハードコア/パンクをベースにプログレッシヴなエレメンツを随所に散りばめ、圧倒的個性を放っている。
フィンランドを拠点に活動するOne Hidden Flameのリリースしたアルバム『I Am Not Here』もA Wilhelm Screamに並んで高く評価されるべき現代メロディック・ハードコア/パンクの名作だ。A Wilhelm Screamのようなスラッシュメタルなどに通ずるワイルドなサウンド・デザインに影響を受けたバンドがシーンに多い中、One Hidden Flameのように現在進行形Propagandhiをはじめ、Baronessなどといったバンドに近い質感を持つバンドも一定数存在する。Thousand OaksやTHANKX 4 ALL THE SHOESといったイタリアン・メロディックに多く観られるスタイルだが、近年はPMXの台頭と共にグローバルな評価が出てきている。微妙なニュアンスの違いではあるが、多くはヴィジュアル・イメージも一味違った魅力があり、分けて追いかけてみると面白いだろう。
Darko、One Hidden Flame共に10年選手であるが、新しいバンドも登場している。イタリアを拠点に活動するThey Become Martyrsは今年に入って幾つかのシングルをリリースしているが、どちらも高いレベルのメロディック・チューンだ。どちらかと言うと2010年代後期に台頭したメロディック・ハードコアの影響が色濃く、Napoleonなどの系譜にあると言えるだろう。豪快なリフワークと突き抜けるようなドラミングはメタルコア、さらにはデスコアといったヘヴィ・ミュージックの最先端のエレメンツさえ感じる。
ポップパンク・シーンからも特異な輝きを放つBelmontがニューアルバム『Aftermath』をPure Noise Recordsからリリースした。プログレッシヴでテクニカルなフレーズがヒップホップのヴァイブスを巻き込みながら、ポップパンクとして放たれる様は、今まで経験したことのない音楽体験だ。パンクロックにまだまだ表現されていないクロスオーバーの形があることを証明したバンドとして、数十年後も語り継がれていくに違いない。
さらにローカルに掘り下げていけば、個性的なバンドがたくさんいる。メロディック・パンクの聖地カナダはエドモントンを拠点とするWolfrikは自信をハードロック/ヘヴィメタルと自称しているが、コテコテのメロディック・シーンで活動するバンドだ。彼らが今年リリースしたアルバム『Clones』は非常にクセが強く、それこそハードロックやヘヴィメタルとも言える楽曲もあるものの、上記のA Wilhelm Screamをはじめ、Belvedereなどが好きならチェックしておくべきバンドだろう。ブレイクダウンを組み込んだ珍しいスタイルを持つFair Do’sも主にメロディック・シーンで活動する技巧派で、ジャンルレスな魅力でローカル・シーンでの存在感は抜群だ。パンクバンドには珍しいユニット体制を取るChiliocosmも、どのジャンルにも属さないながら、パンクベースのユニークなサウンドを鳴らす。彼らのプレイスタイルなどを見ると、プログレッシヴ・ロックのPolyphiaやUnproseccedといったバンドの影響も見え隠れする。
ユニークゆえ、ジャンルとジャンルの間を往く彼らのようなスタイルは、一般受けしないものの新しいパンクを求めるリスナーにとっては刺激的なバンドだ。サブジャンルがクロスオーバーを続けていく先に、どんな音楽があるのか、想像するだけでワクワクしてしまう。
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