リバイバル気味だった雰囲気は、Machine Gun Kellyが2020年にポップパンク・アルバム『Tickets to My Downfall』、そして2022年の『Mainstream Sellout』の爆発的なヒットによって確実性を帯び、2010年代後半にムーヴメントを巻き起こしたエモラップがポップパンクと上手くクロスオーバーしながら、ラップ、ポップパンク/ロック・シーンを横断するような活動によって本格化した。そこには多くの女性アーティストが登場し、輝きを放ち、小さなポップパンク・シーンからビルボード・チャートのトップになるようなアーティストにまで、エモ・ポップパンク・リバイバルの影響を感じることが出来た。
Olivia Rodrigo
2023年、女性ポップパンク/ロックの最も大きなハイライトに挙げられるのは、Olivia Rodrigoの活躍だろうか。アルバム『GUTS』はビルボードの「The 50 Best Albums of 2023: Staff List」の1位にもなり、多くのロックメディアのトップ・アルバムにランクインした。アルバム全体の作風に関して言えば決して「ポップパンク・アルバム」とか「ポップロック・アルバム」とは言えないかもしれないが、アルバムのオープニングを飾る「All-American Bitch」は現代のティーンエイジャー達のロック・アンセムとして爆発的なエナジーに溢れ、もやもやとした気持ちを晴らすようなキラーチューンに仕上がっている (Oliviaのスクリームが可愛いとミーム的に話題になったのも記憶に新しい)。対象はなんであれ、形にならない怒りや苦しみを爆発させるために現代のポップパンクが作用しているようにも感じる。かつてのパンクがそうであったように、同じエネルギーが今のポップパンクにはあると言っていいだろう。
Charlotte Sands
2023年に多くのシングルをリリースしたCharlotte Sandsは「use me」、「pity」とダイナミックなポップパンク/ロック・チューンをリリース、精力的なツアー活動やコラボレーションなどで知名度をあげ、2024年1月24日、待望のデビュー・アルバム『can we start over?』をリリースする。2020年代のエモ・ポップパンク・リバイバルに頭角を表した女性シンガーソングライターの中で最もブレイクを期待されるCharlotte Sandsの成功は、2020年代中期、そして後期がどのような動きをするかを左右するほど、重要な鍵となるだろう。彼女のように独立したアーティストがメインストリームで活躍することが出来れば、さらに多くのポップパンク/ロック・シンガーソングライターが登場してくるはずだ。
LOLO
TikTokから登場したカナダの女性ポップロック・シンガーLØLØもHopeless Recordsと契約し、2023年には数多くのシングルを発表。中でも男性ポップパンク・ユニット、girlfriendsとのコラボ・シングル「5,6,7,8」、そして「hot girl in hell」は毒のあるLØLØらしさと本格的なポップパンク・サウンドで高い注目を集めた。彼女も2024年に更なる活躍が期待されるアーティストの筆頭株だ。
Lauran Hibberd
Hey Violet
2020年の初めからじわじわとキャリアを積み重ねてきた彼女らの後続も、興味深いアーティストがひしめき合っており、2023年は面白い楽曲が次々とリリースされたので紹介したい。イギリス出身のLauran Hibberdはインディロック系のシンガーソングライターからここ数年はポップパンク/ロック系の楽曲を連発しており、「pretty good for a bad day」ではAll Time LowのAlexとコラボするなど、こちらもコラボレーションを通じてその名をポップパンク・シーン、そしてポップロック・シーンへと広めている。彼女は自らのサウンドを「slacker pop (*なまけものポップ)」と表現しており、独特のゆったりとした浮遊感、アトモスフィアがファンを虜にしている。そして長年に渡りこの手のジャンルを牽引し、LØLØの発掘にも貢献したHopeless Recordsがもう一組、注目の女性ポップロック・シンガーと2023年に契約した。その名も「Hey Violet」。シングル「i should call my friends」は一度聴いたら耳から離れない煌めく星々のようなメロディと囁くようなボーカルが印象的なアーティストだ。こちらは既に人気のあるアーティストであるが、2024年に更なるブレイクが期待される。
Heather Sommer
大きなレーベルのフックアップはないものの、独立した活動ですでに一定の知名度を誇っているのがHeather Sommerだ。彼女はインディロック/ポップ・シーンとポップロックを行き来しながら、類まれなメロディメイカー、そしてシンガーとして既にSpotifyやApple Musicなどの公式プレイリストの常連だ。アコースティックからはサッド・ポップパンクの雰囲気もほのかに感じられ、「it’s a part of human nature」、「the need to feel」はReal FriendsからKnuckle Puck、そして Good Griefといった本格派ポップパンク・ファンも唸らせる魅力を放っている。