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Brass Emo -スカとポップパンクの新しい化学反応-

2024.12.22

Photo : Bill Cardella


 
スカパンクの”パンク”は、メロディックパンクのパンクであったり、Less Than JakeやGoldfingerといったバンドであれば、そのパンクはポップパンクであったりする。それは良い意味で、ハードコアパンクなどとのクロスオーバーであるスカコアの存在を内包したり、パンクの持つ広がりとスカの融合を広義の意味で表すスカパンクというキーワードとして現代では機能している。
 
ここ数年、Millingtonの登場などでスカパンクのパンクがポップパンクを意味する場合でも、Less Than JakeやGoldfingerといったバンドとの違いが感じられるようになってきた。それは、ポップパンクが進化していることの表れであり、スカパンクというキーワードでは収まりきらない魅力を「Brass Emo」というキーワードで表現するようになったことにも象徴される。2024年の下半期には、この「Brass Emo」というキーワードにフォーカスし、新しいスカとポップパンクのクロスオーバーをスカのシーンで見渡していた。そうすると、やはりポップパンクの成長を感じることが出来たし、スカパンクの可能性がサブジャンルの進化によって拡張されていくのが感じられた。ここでは、「Brass Emo」というマイクロジャンルを自称しているいないに関わらず、現代ポップパンクのフレーバーをスカパンクに組み込んだスタイルのバンドの中から、きらりと光るシングルをピックアップし紹介したいと思う。
 

 

 
▶︎Millington 「Radio」
最初に紹介するのはやはりこのバンドである。ニューヨーク州オールバニー出身のMillingtonは、11月に公開した「Radio」のミュージックビデオが日本国内のソーシャルメディアで注目を集め、ベース/ボーカルのフロントマンCodyは日本語が出来ることから、一気に来日を望むような強固なファンベースを獲得。blink-182MXPXといったメロディック/ポップパンクをベースとしたスカ・サウンドは、アンセミックで耳に残りやすいフレーズと、バウンシーなパートの対比が絶妙で「ありそうでなかった」サウンドを見事にMillingtonスタイルへと昇華している。すでにアメリカでHEY-SMITHと対面済み、来年は日本での公演が熱望されているバンドの筆頭と言えるだろう。
 

 
▶︎TITLE HOLDER 「Found My Home」
ニューヨークを拠点とする7人組バンド、TITLE HOLDERが今年サプライズ・リリースしたシングル「Found My Home」はリリックビデオとしても公開されており、ソーシャルメディアに書き込まれたコメントには「Less Than JakeやGoldfingerの後継者だ!」と絶賛されている。自らもプロフィールに「SKA + POP PUNK」とサウンドを形容しているように、青い空のように広がるサウンドスケープの中で、軽快なビートとホーンを炸裂させている。下地となっているポップパンク・サウンドは、同郷のMillingtonがAll Time LowやSimple Planといったエモ・ポップパンクだとしたら、TITLE HOLDERやReal FriendsState Champsといったものが近いだろう。そうした微妙なインフルエンスの違いも、結果的に大きな違いとなって「スカ+ポップパンク」というマイクロジャンルの中で光る個性になっている。
 

 
▶︎Lucky Hit 「Hungover (ska version)」
イングランドの南東部に位置するサリーで活動するポップパンク・トリオ、Lucky Hitが2023年にリリースした目下最新作『Echos and Ashes』に収録されている「Hungover」のスカ・バージョンとしてリリースしたのがこの楽曲で、彼らと親しいPRアカウント「Be Sharp Promotions」のおすすめでこのバージョンを制作したという。さすがはスカパンク専門PRアカウントだけあって、元々スカ・ポップパンクな楽曲として制作されたかのように、ホーンセクションがバッチリとはまっている。All Time LowやSimple Planといったエモ/ポップパンクのネオンの輝きを持つメロディとスカのアトモスフィアがバランス良く絡み合う仕上がり。ぜひ『Echos and Ashes』をそのままスカ・アレンジして発表してもらいたいほどだ。
 

 
▶︎Sorry Sweetheart 「50 First Dates」
ラスベガスの5人組男女混合バンドであるSorry Sweetheartは世にも珍しい「SKA + EASYCORE」に挑戦している。モヒカンでパンキッシュな女性ギタリストとハードコア・タフガイのようなヴィジュアルから、このサウンドを想像出来る人はなかなかいないだろう。シングル「50 First Dates」はFour Year Strong出現以降、アメリカで盛り上がったポップパンク/ハードコア、例えばCarousel KingsBad Case of Big MouthLegend Has Itといったタイプのイージーコアにホーンセクションを組み込んでいる。やや挑戦的な試みではあるが、スカパンク・ブレイクダウンのキャッチーさは一聴の価値あり。
 

 
▶︎Stacked Like Pancakes 「Castaway」
ミネソタ州ミネアポリスを拠点とする5人組、Stacked Like Pancakesが今年発表した6曲入りのEP『Everything Happens!』は、Keep Flying!Devon Kay & the Solutions、Hoity-Toity、Suburban Legends、The Littlest Man Bandといったアメリカン・ローカルなバンドがゲスト参加しており、コアなリスナーの間で注目された。バンド名やInstagramの投稿からもわかるように、アメリカ人らしいクセのあるユーモアが楽曲にも溢れている。EP収録曲の「Castaway」は、The AtarisThe Starting LineといったポップパンクからMasked Intruderにも通ずるフックを持ったメロディを炸裂させたかと思えば、楽曲中盤ではトリッキーなホーンソロを差し込んでくる。一筋縄ではいかない、そんな凝った細工はスカパンク・マニア向けと言えるだろう。とは言え、耳馴染みが良く、何度も聴きたくなる作品であることは間違いない。
 

 
▶︎Bumsy and the Moochers 「Please Abduct Me」
シカゴを拠点とする女性ボーカル/ギタリストをフロントマンに据えた7人組が、2024年にリリースしたいくつかのシングルの中でも、最もポップパンクに接近し、カラフルなメロディが軽快に転がるような楽曲が、この「Please Abduct Me」だ。至ってシンプルなスカパンクで、”女性ボーカル版Less Than Jake”とでも言いたくなる。
 

 
▶︎Backyard Superheroes, Coolie Ranx 「Mass Hysteria」
ニューヨークの9人組! 大所帯スカパンク・バンド、Backyard Superheroesが、サードウェーヴ・スカのThe Toasters, Pilfersに在籍するレジェンド、Coolie Ranxをフィーチャリング・ゲストに迎えたシングル「Mass Hysteria」は、ミュージックビデオとして5月に公開された。ツインギターで厚みのあるサウンドからギターソロとホーンセクションが巧みに絡み合う (時に渋滞する) パートは、なかなか聴けない。加えてCoolieのパートがもたらすキャッチーさも楽曲を面白く仕立ててくれる。ポップパンク感は希薄ではあるが、ポップパンク的な軽妙さはBackyard Superheroesの特徴と言えるだろう。
 

 
▶︎Millie Manders and the Shutup 「Angry Side」
ロンドンを拠点に活動する男女4人組スカ/パンクロック・バンド、Millie Manders and the Shutupのシングル「Angry Side」は、怒れる10代の内面からの手紙であり、怒りのカタルシスからの解放というコンセプトで制作された楽曲で、ミュージックビデオにもなっている。ジェンダーの問題をバンドの大きなテーマとして掲げ活動を続けてきた、今のUKバンドらしいスタイルのバンドで、スカパンクに止まらないポテンシャルを持っている。強いメッセージ性を豊かに表現するパンクサウンドは、ジャンルの垣根を越え続け、本楽曲ではポップパンクの激情を巧みに利用しながら形作っている。
 

 
▶︎Manifesti Elettorali 「Un’estate Italiana」
イタリア・ミラノから突如現れた、正体不明のスカ/ポップパンク・バンド。アーティスト写真はなく、ライブをした形跡もなく、メンバーは一応4人ほどいるようだが、もしかしたら、ソロ・プロジェクトなのかもしれない。AI生成のアートワークでシングルリリースを連発し、配信プラットフォームでの存在感は高かったが、イタリア語のリリック謎めいた雰囲気から、なかなかリスナーは獲得できていないのが現状だ。しかし、そのサウンドは、ポップパンク・ムーヴメントが世界へ飛び火していった2010年代前後に局所的な盛り上がりの中で一際異彩を放っていたMelody FallRed Summer Tapeといったイタリアン・ポップパンクの香りとホーンを見事に融合させており、イタリア語がわからなくても不思議と耳に残る。大きなブレイクはないだろうが、フォローしておいて損はない存在だ。

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