2023.01.10
ロックという音楽の誕生からどれほどの時間が経っただろう。長い時間をかけて変化し続けてきたこの音楽ジャンルは2023年になった今も進化を続けている。そしてそれは「K-Pop」というシーンの中でも静かに燃え始めている。
グローバルな人気が高まるK-Popシーンにおいて「ロック」は近年重要なキーワードになっている。BTSがColdplayとコラボレーションしたり、トップチャートに名を連ねるアーティスト達のインタビューなどでは「エモ」や「ポップパンク」というジャンルの名前が飛び出したり、実際にBLACKPINKのROSÉが自身の25歳のバースデーを祝うライブ配信で、Oasisの「Don’t Look Back In Anger」、COLDPLAYの「Viva La Vida」に次いでイングランドのポップパンク・バンド、Neck Deepの「December」をカバーしている。
最もロックからの影響を体現しているのがTOMORROW X TOGETHERだろう。BTSが所属するBIGHIT MUSICの5人組アーティストで、2022年にはシカゴで毎年開催されるロック・フェスティバル「ロラ・パルーザ」に出演し、耳の肥えたロック・ファンの注目をさらった。ステージにはフィーチャリング・アーティストとしてロック・ラッパーiann diorが登場したり、ステージ外ではハイパーポップ・アーティストGlaiveらと仲良く撮影したりしている。度々ロックTシャツを着てミュージックビデオなどに登場したりもしている。HUENINGKAIはAvril Lavigneの「Sk8er Boi」をカバーして本人からポジティヴなフィードバックをもらっていたのも印象的な出来事だった。
K-Popにロック・ミュージックのトレンドが持ち込まれながら、新たな魅力を引き出す動きが 多く見られるようになってきた今、ロック/ポップパンクのシーン側からその魅力に注目していくことも大切だろう。なぜなら、これからK-Pop発のロックが世界のスタンダードになるかもしれないからだ。今回PUNKLOIDでは「K-Popが新しいロックのスタンダードになっていく」というシリーズコラムでロックの影響を受けたK-Popの注目トラックを紹介していく。
▶︎KANG DANIEL 「JOY RIDE」
2022年10月に日本デビューを果たしたソロ・シンガー、KANG DANIEL (カン・ダニエル) は、Wanna Oneのメンバーとして活動し、2019年に韓国でソロ・デビュー後、数多くのアワードを受賞。日本デビュー盤『Joy Ride』にはギタリストのMIYAVI、ラッパー/シンガーのちゃんみながゲスト参加している。
この作品のタイトル・トラックである「JOY RIDE」は、太陽の光に溶け込んでしまうかのように柔らかなKANG DANIELの歌声がポップパンクを下地に響くエレクトロニックなロック・ビートの上を楽しげに躍る。Travis Barkerとのコラボで知られるロック・ラッパーSuecoに近いテイストであり、そのメロディラインはどこかジャパニーズ・メロディックパンクにも通じる雰囲気がある。痺れるようなリフをアクセントに”シンガーソングライター・ロックの最新形”を聴かせてくれる。
▶︎VERNON 「Black Eye」
“セブチ”の愛称で親しまれるK-Popグループ SEVENTEEN のメンバーでアメリカ・ニューヨーク出身 Vernon のシングル「Black Eye」は、アメリカのポップパンク・リバイバルに呼応したかのようなエネルギッシュなポップパンク・チューンだ。
SEVENTEENは人気シングル「Rock With You」でThe Kid Laloi x Justin Bieverの「STAY」からの影響を表現、グルーヴィなポップロックでその名をロック・シーンにも轟かせた。Vernonは「Black Eye」でポップパンク・リバイバルのキーパーソンであるTravis Barker が手掛ける現代ポップロックとクラシック・ポップパンクのクロスオーバーの典例とも言うべき本格的なサウンドを鳴らしており、それは単なる流行りを取り入れたものでないことを証明している。Vernonのネイティヴなボーカルは生命感に満ちたポップパンク・サウンドに導く重要なキー成分として輝きを放っており、続くシングルにも注目である。
▶︎WOODS 「i hate you」
UNIQ、XIといったグループでの活動で知られるチョ・スンヨンによるソロ・プロジェクト WOODZ はより分かりやすい形で現代ポップパンクのカラフルなポップ成分をたっぷりと詰め込んだロック・チューンを響かせる。ミュージックビデオにもなっている「i hate you」は、パンキッシュなヴィジュアルに目が行くが、パンクのトゲトゲしさにやすりがけしたような、ピュアな”K-Pop Rock”とでも言うべきスタイルを見せている。甘く少年のような歌声がポップロックに上手くマッチしているし、Machine Gun KellyやAvril Lavigneといったトップ・アーティストからの影響をそのままマネするだけでなく、自分らしさの中に昇華しているところにセンスを感じる。
▶︎Chu Seo Jun 「Come to My Party! (Feat.Reddy)
2020年にラッパーとしてデビューしたシンガーソングライターChu Seo Junが2022年にリリースした作品『Emotions of 22S/S』は若いロック・リスナーの耳に馴染みやすい現代ポップ・ロックの良質アルバムだ。REDDYやBILL STAX、OLNLといったアーティストがゲスト参加しながらジャンルに縛られない自由な作風が味わい深い作品で、オープニングを飾る「Come to My Party!」ではかなり本格的なポップパンク・チューンを響かせ、MOD SUNなどの影響が感じられるはずだ。上記のアーティストに比べればまだデビューしたばかりのニューカマーであるが、これからどんなサウンドを鳴らしていくのか楽しみな存在である。
今回は男性シンガーソングライターにフォーカスしてロック/ポップパンクの影響を受けたK-Popの最新楽曲を紹介してみた。ぜひロックのカテゴリーの一派としてのK-Popにも注目してもらいたい。
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